2019/ 6/07(金)

野菜ジャーナリストが大学院生する理由≒『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』

2018年度より立教大学大学院観光学研究科の博士前期課程に在籍し、研究をしています。

まさか社会人になってから論文を書くために学びなおしをするとは、

自分でも想像もしていませんでした。

 

野菜ジャーナリストが大学院生する理由

ではなぜ野菜ジャーナリストが大学院生しているのか?

その理由は、今、話題の新潮新書『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』の著者

野口憲一さんとの出会いにあります。

野口さんは、レンコン生産農業に従事しつつ、民俗学者という超異色の二刀流です。

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当初、民俗学者の顔は知らず、ひとりの農業者として、取材対象としてみていました。

私も同じレンコン産地の生まれ。

プロフィール写真でも、レンコンのペンダントをしているくらいの無類のレンコンLOVERです。

それゆえに、野口さんのロジカルでドライにも感じられる物言いも相まって

「1本5000円のレンコン」とは何ぞや!と物言いをつけ、「●●●●レンコン」と揶揄したことがありました

(そのエピソードは『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』に書いていただいています。)

 

ですが、その理由を学術的根拠に基づき、熱く語る野口さんにすっかり納得させられることに。

そして野口さんは、こう続けました。

 

「『伝統野菜』の『伝統』がなにか説明できますか?(やや挑発的に(笑))

篠原さんは、学問をやれば、もっと強くなれますよ。」

 

なんだとー!負けず嫌いの私は、ケンカをかってしまいました(笑)

いや、実務と学術を接合する強みを全国の農業者のために活かしてほしい、と

私に託してくださったのです。

そして「おばあさんが活動の原点にある篠原さんは絶対に民俗学だと思うんです。」と

民俗学の可能性を教えてくれました。

 

そこからはあっという間でした。

連日、何往復ものメッセージのやり取りでご指導いただきながら

大学院を探し、研究計画を書き、受験勉強、受験。そして今に至ります。

 

そんな熱い野口さんが自ら、「1本5000円のレンコン」を着想し、バカ売れするに至る過程を

語ったのが、『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』です。

 

『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』はここが違う

本書は、農業の価値を上げるために「伝統の創造」を逆活用した、泥だらけのサクセスストーリーです。

思わず一気読みせずにはいられない、のど越しのいい文体は、学術論文での経験ゆえでしょう。

 

一見すると、よく聞くブランディングやマーケティングの手法に感じるかもしれません。

でも、それを着想した経緯が全く違います!

道具が同じように見えても、使う人、使う動機が異なると、道具が活きるし、説得力が増すんですね。

 

なぜ、「『生産性の向上モデル』と決別した」のか。なぜ「安売りできなかったのか」。

野口さんを突き動かしたのは、生まれながらにして背負った「農家の哀しみ」なのだといいます。

 

それを赤裸々に綴った五章こそが肝であり、野口さんの強みだと思いました。

農業に従事する方、関わる方なら、きっと五章のラスト2ページは涙なしには読めません。

五章に、これまでの着想、未来への展望の理由がぎゅっと詰まっています。

 

農業の現実、それを農業者がどう感じ、どう乗り越えようとしてきたのか。

それを通して現代農業の内実、未来を知る上でも良書です。

二章の「レンコンはなぜ大衆化したのか」は衝撃でした。

「最終的にレンコン農家に残された道は、『台風の到来を待つ』だけになりました」って…。

 

これまで何百人と取材させていただいた中で、私が伝える必要がない、と感じるほど

「伝わる力」で溢れる農業者がいました。

その方々は取材の数年後、自らの著作を発表されています。

キレイゴト抜きの農業論の久松達央さん、『闘うもやしの飯塚雅俊さん、

『小さい農業で稼ぐコツ』の源さんこと西田栄喜さん、、、

野口さんもその一人でしたが、民俗学(社会学)がベースにある、という点で

学術の世界の入口にも触れられる、独特の世界観が生まれています。

 

私がなぜ大学院生しているのか、民俗学に可能性を見たか、共感いただけるかと思います。

 

同書の中に、何度となく出てくる言葉があります。

「矜持(きょうじ)」です。辞書には「自分の能力を信じていだく誇り。プライド。」とあります。

哀しみを引き受け、矜持をもって生きる。

万人に通ずる、どう生きるか、を考えさせてくれる一冊でもありました。